ROSCしたら心カテは必須?

 

心停止となる原因の多くが心原性とされます。そしてROSC後にST上昇があればCAGへ急ぐことに異論はないでしょう。一方でSTが上昇していない場合はどうでしょう? 非心原生疑いの患者さんでもCAGすることにメリットはあるのでしょうか? 

 

今回はそのような臨床のギモンに答える3つの論文を読んでみました。

 

1つめの論文です

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Coronary Angiography after Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation 

N Engl J Med. 2019 Apr 11;380(15):1397-1407.

PMID: 30883057

 

【研究の目的】

STEMIのない心停止後の蘇生に成功した患者に対する即時冠動脈造影とPCIの有効性を調べた。

【わかっていること】

ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と心停止を呈した患者に対して即時冠動脈造影を行いPCIを行うことが推奨されている。

【わかっていないこと】

心電図でS T上昇を認めない心停止患者(NSTEMI)に対して即時冠動脈造影を行うことの有効性。

【方法】

STEMI徴候を伴わない蘇生に成功した心停止患者(心電図でSTEMI徴候、ショック、明らかに冠動脈以外に原因ありの場合は除外)522例を直ちに冠動脈造影を行う群と、神経学的回復後まで待って冠動脈造影を遅延させる群を無作為に割り付け主要・副次的評価項目を評価した。

■主要評価項目:90日後の生存率

■副次的評価項目:脳機能障害、心筋損傷、カテコラミン投与期間、ショック、心室頻拍の再発、人工呼吸期間、大出血、急性腎障害、腎代替両方の必要性、目標体温までの時間、集中治療室退院時にお神経学的状況

【結果】

院外の心停止後の蘇生に成功したSTEMI徴候の無い患者において、即時血管造営を行った群では273例中176例(64.5%)、遅延血管造影を行った群では265例中178例(67.2%)が90日時点で生存していた(オッズ比:0.89,95%CI:0.62~1.27,P=0.51)。

副次的評価項目においては、目標体温までの時間は即時血管造営を行った群では5.4時間、遅延血管造影を行った群では4.7時間であった(幾何平均の比1.19,95%CI:1.04~1.36)。

その他の副次的評価項目では群間有意差は無かった。

【今後の診療】

NSTEMI患者で直ちに冠動脈造影を行う必要はない。

今回の研究で即時冠動脈造影群は遅延冠動脈造影群に比べて目標体温に到達するまでの時間が長かった。目標体温への到達の遅れが、即時冠動脈造影によって得られたかもしれないベネフィットを弱めた可能性がある.

→早期の目標温度管理を行う。

【滝沢先生発表】

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2つめの論文です

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Coronary Angiography After Cardiac Arrest Without ST Segment Elevation: One-Year Outcomes of the COACT Randomized Clinical Trial

JAMA Cardiol. 2020 Dec 1;5(12):1358-1365.

PMID: 32876654

 

 

この論文のまとめ

ST変化のない心停止蘇生後の即時での冠動脈造影は、有用ではない

わかっていること

ST変化のある心停止蘇生後の即時の冠動脈造影は有用

わかっていないこと

ST変化のない心停止蘇生後にすぐに冠動脈造影を行うことが予後改善に寄与するか無作為試験はなし

論文で新たに分かったこと

ST変化のない心停止蘇生後すぐに冠動脈造影を行うことは予後改善に影響を与えない

今後の診療をどう変えるか

ST変化のない心停止蘇生後全例にすぐに冠動脈造影は施行しない

 

この論文の位置付けと経緯

①心停止の原因として虚血性心疾患が最も多いと言われていて70%を占める

②ST変化のない心停止蘇生後に対してすぐに冠動脈造影を行うことが推奨されるか無作為化試験で検討されたことはない

③ST変化のない心停止蘇生後にもすぐに冠動脈造影を行うことが予後の改善につながるのではないかと仮説が立てられ、検討することが目的である。

 

研究デザイン

無作為化オープンラベル多施設共同試験、優越性試験

オランダの19の施設、2015年1月8日から2018年7月17日の間に、心停止からの蘇生に成功し、心電図にST上昇を示さなかった552人の患者

介入

ST変化のない心停止蘇生後の患者に2時間以内に冠動脈造影を施行し、不安定な狭窄あればPCI施行。コントロール群は冠動脈造影をすぐに行わない

結果

552人が登録され、522人が解析対象に

413人が男性(79.1%)、109人が女性(20.9%)、平均(SD)年齢は65.4歳(12.3歳)

主要評価項目

90日後の生存率に有意差なし

二次評価項目

1年生存率にも有意差なし、QOLスコアにも有意差なし

結論

ST変化のない心停止蘇生後にすぐに冠動脈造影しても生命予後を良くすることはない

【山崎先生発表】

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最後3つ目の論文です

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Angiography after Out-of-Hospital Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation

N Engl J Med. 2021 Dec 30;385(27):2544-2553.

PMID: 34459570

 

OHCAに対して、早期にCAGをすることが予後を改善するのか

● 今までわかっていること:

OHCAの頻度として、心筋梗塞は頻度が高い。

● わかっていないコト:

心電図上ST上昇のない患者の早期の冠動脈CAGや血管の再開通のメリットがあるか

● 論文で新たに分かったこと:

即時にCAGをするグループ(immediate-angiography group) vs

まずICUに入床し、遅れてCAGもしくは選択的CAGをするグループ(delayed-

angiography group)で比較。

Primary end point:30日までの死亡率

→ 54% vs 46%(HR 1.28: 95%CI 1.00-1.63;p=0.06)

Secondary end point:30日までの死亡と重症神経学的欠損(CPC3-5)

 → 64.3% vs 55.6%(RR 1.16: 95%CI 1.00-1.34)

● 今後の診療をどう変えるか:

心電図上ST上昇を認めなければ、まずはICUで評価をして、必要であれば

CAG/PCIを行うことを依頼する

 

 TOMAHAWK trialという無作為化オープンラベル多施設共同試験です。

到着後なるべく早期にCAGを行うグループ(immediate-angiography group) vs まずICUに入床し、ICUで評価をする→心肺停止の原因でACSが疑わしい場合には、最小で心肺停止から24時間遅れてCAGをするグループ(delayed-angiography group)の比較です

 

ただし、Tpo-I/Tが基準値の70倍以上、CKが10倍以上、電気的に不安定な状況、心原性ショック、新規のST上昇があった場合には、24時間以内にCAGに移行しています

 

【患者背景】

70歳(60-78歳)、30.4%が女性、37.6%が既往に心疾患、

15分でROSC(9-20分)、55.5%がショック適応リズム

 

【結果】

Treatment and Procedure

Table 2,ではCAGの施行率 95.5% vs 62.2%

心肺停止からのCAGまでの時間 2.9時間 vs 46.9時間でした

【合田先生発表】

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2019年~2021年に続けてでているROSC後NSTEの症例は緊急CAGよりも集中治療室で早期に体温管理を含めた集学的治療をまず行う方が良いという結論です。

 

当院では蘇生は救急医で行われます。心停止の原因が明らかな非循環器疾患の場合を除けば、ROSCした場合は循環器内科医とCAGの是非を競技してきました。STEならCAGはお互い異論はありませんが、NSTEの場合は相談して都度検討していました。今回の研究をもとに、相談の上で緊急CAGをしないという選択肢の場合は、救急医が集中治療を開始するケースもありそうな印象です。

 

みなさんの病院ではどうでしょうか?