めまい

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めまいはERでよく見られる疾患です。特にBPPVと前庭神経炎は頻度の高い疾患です。今回はこれらの末梢性めまいに関する最新の文献を3つ確認しこれらコモンディジーズの勉強をしました。 

まずはBPPVから。BPPVの診断にはDix-Hallpike testが治療にはEpley法が有用とされています。一方でBPPVを確定するための画像や血液検査はありません。そのためDix-Hallpike testとEpley法がBPPVでは非常に重要なのです。しかし現実では、これら二つをきちんとベッドサイドで実施できていません。そこで一つ目の文献です

 

文献1

Implementation of Evidence-Based Practice for Benign Paroxysmal Positional Vertigo in the Emergency Department: A Stepped-Wedge Randomized Trial 

Annals of Emergency Medicine  Volume 75, no. 4 : April 2020 

*URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31866170/

今までわかっていること 

BPPVはERでよく見られる疾患で、評価・治療の選択肢はあるが十分に活用されていない。 

今回の目的 

ER受診時のBPPVに対する検査(Dix-Hallpike test [DHT])と治療(canalith repositioning maneuver [CRM])の使用を増やす戦略を評価した。 対象施設にビデオ画像と書面での提示で教育介入を行い、介入前と介入後の使用率をカルテ記載で評価した。

論文でわかったこと 

BPPVに焦点を当てためまい外来受診へのアプローチの実施戦略が、エビデンスに基づいたケアを推進する上で成功し、安全であることが証明されたにもかかわらず、介入した検査・治療法の実践率は低かった。

今後の診療をどう変えるか 

DHTとCRMの絶対使用率は依然として低かった。これにはめまいとして受診する幅広い対象があること、また対象戦略を提示することによっても医療従事者の行動を修正する難しさが示されており、ER内での協力体制に加え、正式な学習構造を看護スタッフまで拡大することが望ましい。 

以下追記 

対象と介入群では介入群がDHT・CRM使用率が高いが差は2.0%であり有意差はあったが、介入群でも絶対使用率は3.5%と低かった。他のアウトカムである90日以内の脳卒中率には差はなく、ER滞在時間は平均15分介入群で長く、入院となった患者は介入群で少なかったが有意差はなかった。頭部CTを施行した患者は介入群で少なく有意差があった。介入することの有害事象は有意なものはなく、介入することでの診療の向上が望めたが、いずれもカルテ記載に頼っていること、また対象が参加する意志があり、参加できる施設に限られているというlimitationも挙げられる。

 

発表者:金城 

 

この文献についてのディスカッションとしては、医師教育への難しさがあげられました。自分たちも使い慣れない診察法を実際の医療現場で行うことへの抵抗感を感じると思われます。実際にベッドサイド で指導してもらい、改善を経験することを繰り替えし成功を実感することが必要であり、その教育を行うことが実際の医療現場では困難だと思われます。

増井先生が、SENCE(神経救急セミナーで)Dix-Hallpike testとEpley法のやり方を教えるたけでは不十分で実施しないとコメントしました。セミナー後に一度は一緒にベットサイドで実症例を前に上級医と実施して初めて若手医師は実施するようになると経験則を述べました。 

二つ目にBPPVの診断を問診だけでできないかというチャレンジをした文献です。

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文献2

Questionnaire-based diagnosis of benign paroxysmal positional vertigo Neurology® 2020;94:e942-e949. doi:10.1212/WNL.0000000000008876 

*URL:

BPPV患者が自分で耳石置換法をすると有用、有効とされており、どの方法を行うかを6つの質問で診断した。質問での自己診断の正当性は80%を呈し、問診を利用したBPPVの診断は有用だといえる。この問診を利用することでBPPV再発例の自己治療にも応用できる可能性がある。

6つの質問

質問1-3全てでYesだった場合BPPVらしい →質問4-6に進む

 ●質問1 周囲または自分が、ぐるぐる回るように感じていますか?

 ●質問2 主に頭を動かしたときにめまいを感じますか?

 ●質問3 持続時間は3分以内ですか? 

 ●質問4 どちらがめまいを強く感じますか?

    (1)横になる時や起き上がる時 / (2)寝たままで頭や体を動かす時

 ●質問5 どちらの方がめまいはひどくなりますか?

    (1)頭を右に向ける時 / (2)頭を左に向ける時

 ●質問6 頭位変換で誘発されためまいはどのくらい続きますか?

    (1)1分以内 / (2)1分以上

質問5に答えられない患者は90%以上の割合でBPPVではなかった。

 

これまでめまいを主訴とする人を対象とした質問法はなく、今後の診療を問診で標準化できる可能性がある。

発表者:松田

 

文献1で医療者を教育することでの診察・技術の標準化への難しさが挙げられていましたが、今回の問診という患者要素を加えることで、めまい診療を標準化できる可能性があると思われます。有用かつ簡便な方法であり、取り入れ、診断を標準化することで頭位変換の治療法が導入しやすくなるのではないかと思います。

 

最後に3つ目の文献では前提神経炎のHINTSについて最新の知見です。HINTSはAVSの中枢性と末梢性の鑑別診断に用いられ、感度はMRIよりも高いとされています。難聴を加えたHINTS plusもあり、小脳梗塞では感度が100%との報告もあります。次の文献で救急外来でのHINTSの有用性についての検討がされていました。

 

文献3

Can Emergency physicians Accurately Rule Out a Central Cause of Vertigo Using the HINTS Examination? A Systematic Review and Meta-analysis

Pubmed URL; https://envisionphysicianservices.com/acep20?utm_medium=digital-ad

 

目的:めまいは救急外来でよく見かける。めまいのほとんどが良性の前提神経炎であり、中枢疾患を除外するために、head impulse test, 眼振の診察、HINTS がおこなわれている。HINTSの有用性についての検討を行った。

方法:Pub med などを用いて、2009年から2019年の文献のメタ解析を行った。

結果:基準を満たす5つのstudy を統合した。Kerber16の発表では、神経内科だけでなく救急医も含まれている。神経内科医によるHINTSの感度は96,7%特異度94.8%であるのみ対し救急医の含まれたstudyのでは感度83%,特異度44%と優位に低く、神経内科医による、AVS患者に対するHINTSexamは有効であるが、救急医でのHINTSは神経内科医に比べて正確性が劣る。

考察:救急医によるHINTSでは、中枢性疾患をrule out できない。 HINTS examination を正確に行えるようにする必要がある。 

発表者:西澤

 

診断、検査に有用とされている方法であっても、専門の神経内科と比較すると救急医での精度は煩雑であり、また教育によっても改善が困難であることが報告されました。手技についてはHands onでの教育も大事だが文献2で上がったように、誰でも判断できる基準があると、救急の現場でのめまい診療を標準化できる可能性があると思われます。

 

まとめ:

 

● BPPVのDix-Hallpike testとEpley法はセミナーだけでは若手医師は実施しない。上級医が一度は手取り足取り実症例で教えよう。 

●BPPVを診断できる6つの問診を臨床に用いてみよう 

●HINTの実施は救急医にはやはり難しく絶対やらないといけない身体検査ではもはやない。