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失神関連のギモンについてです。
第2回目のテーマは失神のリスクは判定可能か?です。
下記の3つの文献をもとに検証していきました。
文献1はJAMAのThe Rational Clinical Examinationシリーズの失神編です。病歴・身体所見・臨床検査などでの各項目で失神のリスクは判定可能かどうか考察された文献になります。
文献1
Did This Patient Have Cardiac Syncope?
The Rational Clinical Examination Systematic Review
JAMA. 2019;321(24):2448-2457.
10.1001/jama.2019.8001
心原性失神が疑われ患者を対象とした11件の研究をレビューした文献です。4317人が登録されていました。
心臓失神の可能性が高い事は以下の事項と関連していました
・35歳の最初の失神時の年齢
・心房細動または粗動の病歴、または既知の重度の構造的心疾患
・冷感、または頭痛、エピソード中に目撃されたチアノーゼ
心臓失神の可能性が低い事は以下の事項と関連していました
・失神後の気分の変化および失神前の行動を思い出せない
不整脈や糖尿病の既往、顔面蒼白、年齢、長時間の起立や座位、失神前の発汗や体温変化、痛みを伴うかどうか等の有無でつけた血管迷走神経反射スコアです。
血管迷走神経スコアは2未満で心原性失神の可能性高い事がわかりました。
2つの研究では、6つの臨床変数に基づく失神研究におけるガイドラインの多変数評価(EGSYS)スコアの精度を前向きに検証しました。
EGSYSスコアが3未満の場合、心失神の可能性が低くなりました(n = 456 感度89-91%、特異度69%-73%; LR 0.12-0.17; 2件の研究)
心臓バイオマーカーは、心臓失神の有望な診断精度を示していますが、診断しきい値には検証が必要です。感度89-91%、特異度 69-73%; LR 0.12〜0.17; 2つの研究)。
多変数スコアの一部として心電図を含む臨床検査は、心臓失神のある患者とない患者を正確に特定することができます。
結果臨床検査で心原性失神の患者を正確に同定できることが示唆されました。
EGYSスコア、血管迷走神経スコア、バイオマーカー、病歴を使用すれば心原性失神の診断が可能となる
発表者:金城
病歴聴取により心原性失神リスク評価が出来る事が確認出来ました。
また、血管迷走神経反射やEGSYSスコアを使用すると同様に心原性失神のリスク評価が出来る事が確認出来ました。
文献2は失神に関するリスクをスコア化出来るか検討された文献になります。
文献2
Risk Stratification of Older Adults Who Present to the Emergency Department With Syncope: The FAINT Score
https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2019.08.429
11施設で行われた観察研究です。
対象としては、60歳以上の原因不明の失神もしくは前失神患者3177名が登録されました
前向き研究?
30日以内の重大な心アウトカムを予測するリスク評価ツール開発が目標として定められました。
心不全歴、不整脈歴、異常な心電図所見、NT-proBNPの上昇、hs-cTnTの上昇からなるFAINTスコアが開発されました。スコアが0の場合、予測感度は96.7%、特異度は22.2%であり、非構造的な医師の判断よりも正確でした(AUC: 0.704 vs. 0.630)。
発表者:合田
文献1と違い、失神のリスクをスコア化出来るか検証された文献になります。
心不全歴、不整脈歴、異常な心電図所見、NT-proBNPの上昇、hs-cTnTの上昇からなるFAINTスコアは、高い感度でリスクを有する高齢失神患者を同定可能であったが、特異度は20%台と、多くが入院管理される現在の実践に与える影響は大きくないとも考えられました。Canadian Syncope Risk Scoreも開発されており、現在外部検証が行われています。
心不全・心電図異常・不整脈・pro-BNP・高感度Tpo-T上昇等を使用すれば失神の予後予測が可能との結論に至りました。
失神のある多くの成人は、しばしば経過観察入院となります。経過観察入院が有効かどうか考察している文献が次の文献になります。
Clinical Benefit of Hospitalization for Older Adults With Unexplained Syncope: A Propensity-Matched Analysis
Annals of Emergency Medicine
https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2019.03.031
米国の11カ所の救急外来での前向きの観察データが使用されました。
2013年4月~2016年9月まで2492人が登録された。
対象は、失神もしくは前失神の60歳以上の患者で、救急外来で失神の原因が判明した患者は除外されました。
入院が30日間の重篤な有害事象の発生率の改善と関連するかどうか検証されました。
30日以内の重篤な有害事象の発生率は、入院患者で7.4%、退院患者で3.19%であり、未調整の差は4.2%(95%信頼区間2.38%から6.02%)でした。入院のリスクに関する傾向スコアマッチング後、入院群(4.89%)と退院群(2.82%)の間で、30日後の重篤な有害事象に統計的に有意な差はありませんでした(リスク差2.07%; 95%信頼区間-0.24 %から4.38%)。
発表者:富森
失神の経過観察入院は30日間の重篤な有害事象の発生率の改善とは関連していませんでした。
原因不明の失神患者は経過観察入院になりがちですが、今回の文献により経過観察入院はルーチンには勧められないとの結論に至りました。
まとめ
・EGYSスコア、血管迷走神経スコア、バイオマーカー、病歴等を使用すれば心原性失神の診断が可能となる
・FAINTスコアを使用すれば失神の予後予測が可能
・原因不明の失神患者の入院はルーチンには勧められない
文献1 10.1001/jama.2019.8001
文献2 https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2019.08.429
文献3 https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2019.03.031