- HOME
- 抄読会
今回は急性膵炎の輸液に関するギモンに答える2つの論文を読んでみました。
1つめの論文はガイドラインです
**************************************
論文名:2019 WSES guidelines for the management of severe acute pancreatitis
文献名:World Journal of Emergency Surgery
PMID: 31210778
【どのような文献か】
重症急性膵炎の管理に関する国際的なガイドライン。世界救急外科学会(2018年6月、イタリアのベルティ ノーロ)で討論し、まとめ上げたコンセンサス。
【わかっていること、これまでの経緯】
2012年にアトランタ分類が改定され、急性膵炎を発症時期と局所病態から4つに分類し、重症度も3つに分類 した。
【わかっていないこと】
重症急性膵炎の管理はcontravercialであった。早期の経腸栄養、予防的抗菌薬の使用、無菌性膵炎に対する 手術の是非、感染性膵炎に対する介入の時期(内視鏡、手術、インターベンション)、胆石性膵炎の管理、 etc。
【論文で新たに分かったこと(保存的加療に関して)】
感染管理 ・重症膵炎でも予防的抗菌薬の使用は死亡率を下げない。抗菌薬の予防的な使用は不要。 ・感染すれば抗菌薬を使用すべきだが、膵炎自体の炎症をみているのか、実際に感染しているのかの判断は 難しい ・プロカルシトニンは感染の進展の指標としては良い ・CTガイド下に穿刺してグラム染色・培養検査をするのは診断に有効だが、必須ではない。 輸液 ・組織還流を保つため、循環動体が崩れる前から輸液すべし。しかし、入れすぎは悪影響なので、頻回に体 液バランスを評価すべし。輸液は等張液でOK。
【今後の診療をどう変えるか】
抗菌薬の適正使用と輸液戦略に関しては急性膵炎診療ガイドライン2021と変わりない。保存加療に関しては 大きく変わりないか。
【小山先生発表】
***************************************
ガイドラインでは輸液量につて厳密なコメントはしていません
むしろ大量輸液しすぎることに警笛がならされています
では輸液量はどれくらいが良いのでしょう?
そこで2つめの論文です
***************************************
論文:Aggressive or Moderate Fluid Resuscitation in Acute Pancreatitis
文献名:de-Madaria E,et al.N Engl J Med.2022.
PMID:36103415
【研究目的】
急性膵炎の初期治療として、20ml/kgの乳酸リンゲル液ボーラス投与ののち、3ml/kg/hで投与を行う積極的輸液療法群、または10ml/kgの乳酸リンゲル液ボーラス投与を行い、その後1.5ml/kg/hの投与を行う中等量輸液療法群へと割り付け、中等症・重症の膵炎発症及び体液過剰への影響を評価する。
【わかっていること】
急性膵炎の初期治療として積極的輸液療法(約4.7L/日)を実施することが提案されている。
【わかっていないこと】
急性膵炎の初期治療としての輸液療法について、輸液量、投与タイミングに関する基準は世界的にも確立されていない。
【論文で新たにわかったこと】
・中等度・重症膵炎の発症率は積極的輸液群で22.1%、中等量輸液群で17.3%と有意差は認めなかった。
・体液過剰は積極的輸液群で20.5%、中等量輸液群で6.3%であった。
→初期の積極的輸液は、中等症・重症の膵炎発症を予防せず、むしろ体液過剰を引き起こした。
【今後の診療をどう変えるか】
日本における急性膵炎のガイドラインでは、初期治療として積極的輸液療法(約4.7L/日)を実施することを提案され、過剰輸液とならないようモニタリングが重要であることが記載されている。本研究における、積極的輸液群における輸液量は1日換算で4.5L程度であり日本の積極的輸液療法と同様である。このことを踏まえると急性膵炎の初期療法における積極的輸液は今後、中等量輸液に見直される可能性がある。
【新垣先生発表】
***************************************
具体的な輸液量の指標として中等量輸液として10ml/kgボーラス投与→1.5ml/kg/hで維持というのは一つの指標になりそうです。その後の議論として、輸液量自体は患者個別性も多く、適時調整する必要があるというコメントがありました。一方で経験の少ない初学者が目安として利用するには一つの目安になると思います。みなさんの意見はどうでしょう?