- HOME
- 抄読会
20年前までは急性虫垂炎の治療の第一選択は手術でしたが、近年は抗菌薬で保存加療する症例の方が増えてきました。そこでER医師が必要な手術か保存加療かに関して臨床のギモンに答える3つの論文を読んでみました。
1つめの論文です
************************************
タイトル
Diagnosis and treatment of acute appendicitis: 2020 update of the WSES Jerusalem guidelines. World J Emerg Surg. 2020 Apr 15;15(1):27.
PMID: 32295644
最初の論文は直近のガイドラインになります。
関連する箇所を確認してみました
Q2.1:合併症の無い急性虫垂炎の成人患者に対して保存的治療は安全で効果的か?
- 合併症の無い急性虫垂炎では多くの場合抗菌薬firstのアプローチで治療が可能。
- 抗菌薬による初回治療後の1年以内再発率は27.4%
- 治療成功率は保存的治療群68.4%に対して手術治療群89.8%
- 保存的治療により穿孔のリスクは増加しない。
- 保存的治療では8%が一次入院中に治療に失敗し、20%は1年以内に再発による入院を要する。
- 保存的治療を成功させるためには患者選択が必要。CRP<6、WBC<12000、年齢<60歳の全てを満たす患者群では保存的治療の成功率が89%
- APPAC試験(RCT)では外科的治療の初期成功率は99.6%だった。保存的治療群では27.3%が初診から1年以内に手術を受け、72.7%は手術を必要としなかった。
- APPAC試験では、抗菌薬で治療された患者のうち晩期再発の可能性は39.1%、再発虫垂炎に対して外科的治療を受けた患者のうち合併症発生率は2.3%だった。
- 保存的治療において糞石は治療失敗の危険因子となる。
- 妊娠中の急性虫垂炎の保存的加療が有用な可能性が示唆されるが少数の症例報告にとどまり、より高レベルのエビデンスを要する。
Q6.1:蜂窩織炎や膿瘍を伴う複雑性急性虫垂炎に対して早期の虫垂切除術は遠隔期の虫垂切除術に対して適切か?
- 蜂窩織炎や膿瘍を伴う虫垂炎の第一選択は保存的治療が妥当。経皮的ドレナージが有用な可能性もあるがエビデンスが乏しい。
- Similisらによるメタアナリシスでは手術first群に比べて保存的治療群で全合併症(創部感染、膿瘍、腸閉塞、イレウス、再手術)が優位に少ないことが示された。
- MentulaらによるRCTでは経験豊富な医師による第一選択としての腹腔鏡下虫垂切除術では保存的治療に比して再入院が少なく、追加介入も少なく、入院期間も同等程度であることが示された。
- Luoらは経皮的ドレナージ+抗菌薬群と抗菌薬群の治療成績を比較した。経皮的ドレナージ+抗菌薬群では再発率が有意に低く術後合併症も有意に低かった。
Q6.2:保存的治療が成功した後の急性虫垂炎患者に対して遠隔期の外科的治療は常に適応となるか?
- 穿孔・蜂窩織炎を伴う虫垂炎に対して保存的加療を行った場合再発率は12%となる。
- 若年成人(<40歳)及び小児において保存的治療後のルーチンでの外科的治療は推奨されない。症状が再発した患者には間隔をあけての虫垂切除術が推奨される。
- 40歳以上の患者の複雑性虫垂炎では虫垂新生物の発生率が高い。40歳以上の手術不要の虫垂炎患者には下部消化管内視鏡、造影CTの両方が推奨される。
【杉山先生発表】
最初にある合併症の有無は次のようになります
Simple or uncomplicated appendicitis is defined as a phlegmonous inflamed appendix without signs of necrosis or perforation, whereas complex or complicated appendicitis has focal or transmural necrosis, which eventually may lead to perforation.
************************************
壊死や穿孔例は適応外(そりゃそうだ)の場合は保存を検討です。このガイドラインがでた当時は噴石が高リスクである指摘はあったものの、それを証明する十分がありませんでした。その後に発表された文献が次のものになります
************************************
タイトル
A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis
N Engl J Med. 2020 Nov 12;383(20):1907-1919.
PMID: 33017106
虫垂炎の患者を抗菌薬での治療群と虫垂切除群にわけ30日後の健康状態について比較したランダム化比較試験です。敗血症性ショック、びまん性腹膜炎、再発性虫垂炎、画像での重度の膿が認められた症例(他外科医が回復に時間を要すると判断した症例)は除外された。副次評価は90日時点での虫垂切除、合併症の有無とし、虫垂結石の有無をグループ解析に用いている。
・わかっていること
虫垂炎に対して抗菌薬投与が治療として成功例があるにもかかわらず現在の治療の中心は手術療法になっている。
・わかっていないこと
虫垂切除と比較した抗菌薬による虫垂炎治療の治療成績。
・論文で新たにわかったこと
30日後の健康状態は虫垂切除群に対して抗菌薬使用群は非劣勢だった。90日までに抗菌薬群の29%が虫垂切除術を受けた(うち虫垂結石保持者の41%、虫垂結石なしの25%)が逆にいうと10人に7人は手術を回避し、外来での通院が可能であった。虫垂結石保持者は発症から90日後までの虫垂切除術と合併症の可能性が高かった。
・今後の診療をどう変えるか
虫垂結石を持っておらず、重症でないと判断された患者にはリスクを説明した上でまずは抗生剤での治療を勧める根拠になった。
制約
抗菌薬の種類を決めていなかった。盲検化されていなかった。
【飯沼先生発表】
***********************************
ポイントは保存加療の非劣勢の証明は、噴石が無い症例では証明された。一方で噴石ありは41%手術されていたという点です(なしは25%)。初診医が診断した急性虫垂炎に噴石があれば術前検査を含めた評価が必要となりますね。
最後は、抗生剤はどするか? という疑問に対する論文です
************************************タイトル
Effect of Oral Moxifloxacin vs Intravenous Ertapenem Plus Oral Levofloxacin for Ttreatment of Uncomplicated Acute Appendicitis
JAMA. 2021;325(4):353-362.
Pubmed ID 33427870
【研究目的】
合併症のない虫垂炎に対して、7日間の抗菌薬内服薬(モキシフロキサシン400mg/日)と、 2日間の経静脈投与(エルタペネム1g/日)による抗菌薬と5日間の経口抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日+メトロニダゾール500mg3×/日)併用では、経口投与のみの群が劣っているのではないか。
【わかっていること】
合併症のない虫垂炎に対しては抗菌薬治療が有効であり、非手術による治療が有効である。
【わかっていないこと】
内服のみの治療結果と、経静脈投与併用では治療成績は有意に変わるのかどうか。
【新たにわかったこと】
18歳から60歳までの合計599人の患者で、CTにて合併症のない急性虫垂炎患者を無作為に抽出。7日間抗菌薬を内服する群と、抗菌薬を2日間経静脈投与、5日間内服する群で比較したところ、両群で65%以上の治療成功率をもたらし、経口抗菌薬のみの群の非劣勢を示すことはできなかった。
【今後の使用をどう変えるか】
日本なら初診に1回目を点滴抗生剤投与し、翌日再診で2日目の点滴抗生剤投与、そして翌日から5日の経口スイッチという方法が主に考えられる。しかし外科のコンセンサスがえられれば内服のみので抗生剤治療する選択肢を考えても良いかもしれない。
【川村先生発表】
************************************
抗生剤の種類に貸しては当院でよく使うSBT/ABPC→CVA/AMPCというレジュメと違いがありますが、7日の内服も2日静脈投与+5日内服も同等という事は患者の通院コンプライアンス次第では選択肢に考えても良いかもしれません。
今回はコモンディジーズである虫垂炎に関して知識をアップデートできました。今は虫垂炎の治療方針は外科医との意見のすり合わせは必要ですが、将来は保存加療の虫垂炎は内科医や救急医が見てしまう時代がくるかもしれません。