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高齢者の予後予測はどうする?
高齢者の搬送が増えています。高齢者といっても元気な90才から、介護度の高い70才など様々です。そうした高齢者が重症疾患で来院した場合に予後予測をどの様にすればよいか? そんな臨床のギモンを今回の抄読会で確認してみました。
最初はCFSというフレイルのスコアに関する文献です
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<文献1>
Validation of the Clinical Frailty Scale for Prediction of Thirty-Day Mortality in the Emergency Department
PMID: 32336486
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32336486/
【研究の目的】
フレイルを判定する指標はたくさんある中でClinical Frailty Scaleは救急外来で役に立つのかどうかを調べた。(予後予測の精度など)
【Clinical Frailty Scaleとは】
絵付きの解説で簡易的に用いることができる。 本研究でフレイルは、Clinical Frailty Scaleスコア5以上と定義。
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【結果】
Clinical Frailty Scale>5というのは要介護3以上のイメージです。その場合は死亡率(OR:4.04)、30日予後(OR:4.12)、ICU入院率(OR:1.22)、入院率(OR:2.59)
【明日からの診療へ】
Clinical Frailty Scaleが5以上
トリアージレベルを上げ優先して診察する
入院適応を広げる
治療介入を早める
【研究デザイン】 三次医療施設、65歳以上の救急外来患者、9週間の前向き観察研究。 合計2,393人の患者が解析され、そのうち128人が死亡。
<まとめ小山医師 増井編集>
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Clinical Frailty Scale>5というのは要介護3以上のイメージです。死亡率、30日予後、入院率の高リスクである結果になりました。高齢者において、もともとの生活状況をスコアリングすることはリスク評価になることがわかります。
ERで介護度や患者さんの元の生活状況を評価することは非常に重要であることがわかります。
二つ目の文献はCFS>5だとROSCしても生存単位はかなり厳しいという話です
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Frailty status predicts futility of cardiopulmonary resuscitation in older adults
PMID: 32500916
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32500916/
【この論文のまとめ】
Clinical Frailty Scale(CFS)は心肺蘇生の中止を判断する一つの指標になる。
【わかっていること】
高齢または併存症を持つ患者は心停止後の生存率が著しく低下する。
【論文で新たにわかったこと】
フレイルは年齢・併存症・心波形から独立して、心停止後の院内死亡と相関している。
【今後の診療をどう変えるか】
来院した関係者・家族から患者の平常時の様子を聴取し、CFSでフレイルの程度を評価して、蘇生中止を判断する一助とする。
【研究デザイン】
後ろ向き研究、National Cardiac Arrest Auditデータベースを用いて特定した2017年5月から2018年12月の間にCPRを受けた60歳以上の患者について、CFSを後方視的に算出し、高齢者におけるCPRのアウトカムとフレイルの関係を解析した。
【結果】
研究期間中に心肺蘇生を受けた60歳以上の入院患者は112人であった。22例を除外した。1例はすでに研究対象となった患者の再心停止。11例はDNACPR文書が発見され、CPRが早期に中止されたケース。4例は臨床記録が少なく、CFS スコアが推測できない、6例は代替診断(例:失神)がなされたケースであった。その結果、90例が解析の対象となった。
- 心肺蘇生後、入院中に死亡した人のCFSは有意に高かった。
- 院内心停止後、退院まで生存したCFS≥5の患者はいなかったが、CFS≤4の患者の26%は退院まで生存した。
- 多変量ロジスティック回帰において、CFSは年齢・併存症・心停止波形で補正した場合、院内死亡率に独立して関連していた。
【結論】
60歳以上の患者における院内心停止後の死亡率は、患者の虚弱性と相関する。
<日吉医師 発表>
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CFS>5だから蘇生をすぐやめるという訳ではありません。しかし蘇生中止の前の家族の説明でもともとフレイルが高い患者は、ROSCしても生存見込みが少ないという事実を伝えることは大切なのではないかという議論をしました。
三つ目の文献は高齢者が緊急挿管され人工呼吸器管理となると、疾患によるが死亡率は高いという話です
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A Time-to-Death Analysis of Older Adults after Emergency Department Intubation
PMID: 31369301
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31369301/
論文まとめ
高齢者が緊急挿管され人工呼吸器管理となると、疾患によるが死亡率は高い
はじめに
2001年から2011年の間に重症な病態の高齢者で挿管し人工呼吸器管理となった割合は30%上昇している。しかし、その転機は不良であり、35〜40%の患者が病院で死亡している。しかし、実際急性呼吸不全の状態になった際に挿管を選択する高齢者は少なくない。予想される予後を具体的な数字で示すことによって、家族の理解が深まるのではないか。
方法
2008年から2015年にかけてメリカの117の医療センターと関連施設で挿管を必要とした65歳以上の患者全て。
主要評価項目:相関後の死亡までの期間
結果
41463例のうち35036人が対象。54%が女性、54%が75歳以上、64%が白人。患者のほぼ半数が65〜74歳であり90歳を超える患者は7%。
→死亡率は35%、死亡までの期間の中央値は3日であった。
中央値の内訳として心筋梗塞は1日、脳血管障害は2日、心臓・不整脈は2日と最短。一般的な敗血症は3日、呼吸不全は4日であった。
全体として死亡率は生存期間の延長とともに減少していく。
結論
緊急の挿管そしてその後の呼吸器管理を行っていた高齢者の挿管から死亡までの期間の中央値は短かった。しかしその期間は診断によって異なっていた。
この結果より家族への説明の際の予後の理解に役立つのではないか。
<飯沼医師 発表>
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現場の感覚でも死亡してしまう高齢者は48時間以内が多い印象です。一方で3日を超えるとサバイブすることは経験的もあります。人工呼吸を開始した場合は、ERで「最初の1,2日が山場です」と説明することは現場であるという意見、また1週間前後にサバイブしたら「山を越えたけど今後は●●…」と説明することはある。そんな現場の感覚を数値化した文献でした。
高齢者の予後は一見すると数値化しにくい印象がありますが、適切なモノサシを使えばある程度測定することは可能だということがわかりました。今後の臨床に行かせてゆければと思います。
<まとめ 増井>