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札幌市内の仕組みとしては三次救急ではない当院ですが、かかりつけや市外からの搬送などで心肺停止の対応をしているため、年間70-80件の院外心停止の対応をしています。蘇生に対する知識のアップデートを行いました。
一つ目の論文です
Association of Intra-arrest Transport vs Continued On-Scene Resuscitation With Survival to Hospital Discharge Among Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest
JAMA(2020)324:11 Brian Grunau et al.
・この論文のまとめ
→院外心停止において、搬送せずにその場で蘇生した方が予後が良い
・わかっていること
→心停止にどのように対応するかは地域によって大きな差異がある
・わかっていないこと
→院外心停止で搬送と蘇生のどちらを優先すべきかはわかっていない
・論文で新たにわかったこと
→搬送せずにその場で蘇生した方が予後が良い
・今後の診療をどう変えるか
→院外ALSができる体制であれば、搬送を急がせない。日本でも?
Abstract抜粋
背景
院外心停止で蘇生処置中に病院搬送をするかどうかは、地域によって大きなバラツキがある。心停止中の搬送と、現場での蘇生処置継続のどちらが優れるかはわかっていない。
目的
院外心停止の患者において、心停止中の搬送が、現場での蘇生処置継続に比べて、退院時点の生存と関連するかを明らかにする。
デザイン
救急隊が扱った非外傷成人院外心停止についての、2011年4月から2015年6月の北米の10施設が参加した地域住民ベースのレジストリデータで、死亡または退院までフォローされたものを用いた前向きコホート。時間依存性傾向スコアを用いて、心停止中の搬送を曝露、同期間の難治性の心停止を非曝露、初期波形と救急隊による目撃をsubgroupとする。
主要評価項目
rimary を退院時生存、secondaryを退院時の神経学的予後良好(modified Rankin scale<3)
結果
43969名、年齢中央値67歳(IQR;55-80)、37%女性、86%が私的な場所、49%がbystanderか救急隊による目撃あり、22%がショック適応リズム、97%が院外でALS、26%が心停止中に搬送された。退院時の生存は心停止中の搬送で3.8%に対して、現場での蘇生処置継続では12.6%だった。
27705名が傾向マッチングの検討対象、退院時の生存は心停止中の搬送で4.0%、現場での蘇生処置継続では8.5%、リスク差4.6%(95%CI,4.0-5.1%)だった。神経学的予後良好は心停止中の搬送で2.9%、現場での蘇生処置継続で7.1%、リスク差4.2%(95%CI,3.5-4.9%)。非ショックリズムであること、目撃なしは、低い生存退院と関連していた。
結論
院外心停止において、心停止中の搬送は、現場での蘇生処置継続に比べて、低い生存退院と関連していた。観察研究の限界として、交絡因子が潜在している可能性がある。
Key Pointsから →『このstudyは、蘇生中に搬送するというルーチンを支持しない』
以上文責 松田
論文2つ目: Family presence during cardiopulmonary resuscitation
Pubmed URL;https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23484827/
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今までわかっていること:
CPR中に患者親近者が近くにいることがその患者親近者や医療チームに与える影響は議論の余地がある。
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わかっていないコト:
90日後の患者家族のPTSD関連症状の発症率、不安、うつ症状の発現、立ち会いが医療チームの蘇生活動やストレス、さらに法医学的問題の発生に及ぼす影響
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論文で新たに分かったこと:
CPRへの近親者の立ち会いの有無は、生存率、2次蘇生処置の時間、薬剤の種類や用量、電気ショックの回数、医療チームの心理的ストレスなどに影響を及ぼさず、法医学的問題を引き起こすこともなかった
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今後の診療をどう変えるか:
CPRに親族を同席させることで、PTSDの軽減を図る
患者近親者のCPRへの立ち会いによる、PTSD関連症状の抑制効果を評価するプロスペクティブな多施設共同クラスター無作為化対照比較試験。
自宅で心停止となった患者の配偶者および近親者が対象。院外救急救命チームを、近親者にCPRに立ち会う機会を提供する群(介入群)または隊長が通常の対応を行う群(対照群)に無作為に割り付け。
Primary end pointは90日後の患者家族のPTSD関連症状の発症率とし、Secondary end pointは不安、うつ症状の発現、立ち会いが医療チームの蘇生活動やストレス、さらに法医学的問題の発生に及ぼす影響。
2009年11月~2011年10月までに、フランスの15の院外救急救命チームが参加し、570人の患者近親者が登録された。介入群に266人、対照群には304人が割り付けられた。
介入群の79%(211/266人)が心停止患者のCPRに立ち会ったのに対し、対照群は43%(131/304人)。PTSD関連症状の頻度は、介入群よりも対照群で有意に高く、立ち会った近親者よりも立ち会わなかった近親者で有意に高かった。
CPRに立ち会わなかった近親者は立ち会った近親者に比べ、不安(24 vs 16%、p<0.001)やうつ症状(26 vs 15%、p=0.009)の発現率が高かった。
CPRへの近親者の立ち会いの有無は、生存率、2次蘇生処置の時間、薬剤の種類や用量、電気ショックの回数、医療チームの心理的ストレスなどに影響を及ぼさず、法医学的問題を引き起こすこともなかった。
IES(Impact of Event Scale):0(no PTSD related sym.)-75(severe PTSD related sym.)
https://www.igakuken.or.jp/mental-health/IES-R2014.pdf
HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale):0(no distress)-21(max distress)
https://www.svri.org/sites/defaul
以上 文責 合田
論文3つめ:Effect of a Strategy of Initial Laryngeal Tube Insertion vs Endotracheal Intubation on 72-Hour Survival in Adults With Out-of-Hospital Cardiac Arrest
JAMA. 2018;320(8):769-778
院外心肺停止に対する気管挿管 vs ラリンゲルチューブ(LT) を検討した研究
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今までわかっていること
院外心肺停止に対して病院前で高度な気道確保が必要である
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わかっていないコト:
院外心肺停止に対する至適気道戦略に関しては、不明である。
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論文で新たに分かったこと:
LT挿入は、気管挿管に比して、72時間時点での生存率が高い
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今後の診療をどう変えるか?
高度な気道確保=気管挿管が至適戦略であるとは限らないことを留意する
【研究デザイン】
米国で実施された27カ所の救急隊含んだ多施設クラスター クロスオーバーランダム化試験。
P:18歳以上、非外傷性院外心肺停止。窒息、LVAD患者、DNAR患者、妊婦は除外。
I:高度な気道確保としてinitial ラリンゲルチューブ LT群 (米国で最も使用されている声門上デバイス)
C:高度な気道確保としてinitial 気管挿管 ETI群 (喉頭鏡、筋弛緩使用可、ビデオ喉頭鏡使用可)
O:Primay アウトカム 72時間時点での生存率
【結果】
2015年12月から2017年11月まで、3004例が登録された。
LT群:1505例、ETI群:1499例
患者背景は、table 1。1829人の男性、1173人の女性、年齢中央値は64歳。初期波形 Asys/PEAが約78%。
プライマリーアウトカムである72時間生存に関しては、LT群:18.3%、ETI群:15.4%で、p=0.04で優位にLT群で生存率が高かった。
セカンダリーアウトカムとして、病院到着時自己心拍再開、退院時生存、退院時神経学的予後良好(mRS≦3)が検討されたが、いずれもLT群で成績良好であった。
t/files/attachments/2016-01-13/HADS.pdf
以上 文責 神野
心肺停止はいち早く病院に連れてくるようにと考えがちでしたが、質の高いALSが行われている場合には搬送を優先しないという考え方を学びました。家族には蘇生処置を見せないようにしがちでしたが、一見ショッキングなことに思えても、家族ケアの一環として見せる選択肢があることを確認しました。最近はプレホスでの気道確保はLTがほとんどとなってきましたが、病院に着くなり何の考えもなく気管挿管へ切り替えるのは、少なくとも時代遅れになっているでしょう。
以上 文責 松田