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今回は「新しい赤血球製剤の方が患者の予後が良いか?」とうクリニカルクエスチョンに対して論文を2つ扱いました。
当院でも輸血、時に大量輸血が必要な患者は毎日のように搬送されます。輸血製剤に関するさらなる理解は今後のER診療に生きると思います。輸血製剤の新旧によって患者の予後が変わるのか、非常に興味があります。
一方で、全ての患者に新しい赤血球製剤を輸血できるわけではありません。新しい赤血球製剤の輸血をした方が良い状況は、どういった時なのでしょうか。
日常診療では、あまり気にしない事ではあったと思いますが、このジャーナルクラブで輸血に関する理解を深め、適切な輸血ができる救急医を目指しましょう。
科内でこの疑問に答える文献をメンバーで抄読し、各々の経験を交えながら議論を行いました。
Age of Red Cell for Transfusion and Outcomes in Critically Ill Adults
Cooper DJ et al. N Engl J Med. 2017 Nov 9;377(19):18
文献1
58-1867 PMID: 28952891
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28952891/
重症成人患者に対する輸血で、RBC製剤の新旧は結果に関係するか
【背景】 重篤な成人に輸血した際に、赤血球製剤の保管期間が死亡率に影響を与えるかはわかっていない
【方法】 国際的な多施設無作為二重盲検試験、同種適合血を輸血する際に、新鮮群(最も新しい)と標準群(最も古い)に分けて、Primary Outcomeを90日死亡とする
【結果の抜粋】 5カ国59施設4919人が解析、保管期間は新鮮群で平均11.8日、標準群で22.4日、90日死亡率は24.8%、24.1%で有意差なし
□この抄読会での用語の定義
新鮮群 =短期間保管群 =最も新しい製剤を使用
標準群 =長期間保管群 =最も古い製剤を使用
■どうしてこのような研究になったのか?
観察研究 赤血球製剤が古いと死亡率上昇(Crit Care 2011)
観察研究 赤血球製剤が古いとARDS/ALI発症率を上げる(Ann Intensive Care 2013)
動物実験 古い製剤の輸血で肺障害や凝固障害起きる(Anesthesiology 2010)
→前向き研究、ヒトでの研究が必要
この論文のまとめ →赤血球輸血が新しくても古くても、重篤成人の死亡率を変えない
発表者:松田先生
文献1に関して議論をしました。赤血球の新旧は、90日の死亡率には有意な差を与えず、新しい赤血球を使うメリットはそれほどないという内容に驚いている医師は多かったです。しかし、死亡率だけではなく、例えば発熱性非溶血性副作用(抗体、抗原、サイトカインが関連する副作用。悪寒、戦慄、頭痛、吐き気を伴う)など他の有害事象に関しても考える必要があるのではないかと指摘がありました。
それに対して、松田医師は、本論文のSecondary outcomeに関して言及しました。本論文では、発熱性非溶血性輸血副作用、新規の血液感染症、ICU滞在日数などに関する比較もされています。Secondaryで調べられた有害事象のいずれでも、新しい輸血が優れているという有意な結果はありませんでした。むしろ、新規の血液感染症に関しては、Odds Ratio 1.42 (P value 0.01)であり新しい赤血球製剤の方がリスクは高いという結果となったようです。これは経験的にも妥当性のある結果との意見もありました。
ただし日本と外国の赤血球製剤の使用期限には注意が必要です。日本の赤血球製剤は採血後21日以内(日本赤十字HPから)と決まっています。今回の研究は42日目まで使用可能としているため、35-42日だと有害事象が起きやすくなる結果でした。
次の論文ではどういった内容だったのでしょうか。大量輸血が必要な症例でも、新旧の輸血の差はなし、と結論づけてよいのでしょうか?この疑問に答える論文を西澤先生が発表しました。
文献2
Allison R. Jones, phD et al. Older blood is associated with increased mortality and adverse events in massively ransfused trauma patients.Ann Emerg Med. 2019 Jun;73(6):650-661.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30447946/
この論文の結論
大量輸血が必要な外傷患者において、古い血液製剤は致死率・有害事象の確率をあげる。
Methods
RBC ageを日数0~7, 8~14, 15~21, 22~でカテゴリー分け。
Primary out come →24時間死亡率。
Result
678人中、100人(14.8%)が死亡。22daysより古い輸血は24時間死亡率上昇に寄与した。
Conclusion
10単位以上の輸血を要する場合、古い輸血製剤では死亡率が上昇したが
10単位以下の場合は、差はなかった。
輸血製剤の古さと結果の関係を理解することは外傷性出血性ショックの予後を良くするために必要。
Selection of participants
15歳以上高エネルギー外傷の基準を見たし、最低1単位の輸血を最初の1時間で受けていて、今後の大量輸血を要することが見込まれる患者。
Outcome measures
Primary outcome→ 24 hour mortality
Secondary outcomes→30 day mortality, 2つ以上の有害事象。
Table2. 有害事象
急性肺障害、急性腎障害、ARDS、心停止、深部静脈血栓症、感染症、多臓器不全、心筋梗塞、肺血栓症、敗血症、脳梗塞、輸血関連循環負荷、輸血による代謝異常、高カリウム血症、低カルシウム血症。
Table5 製剤の古さで分類し、有害事象、24時間以内の死亡を分析。さらに、輸血量でも分類を行っている。8~14, 22days以上では24時間死亡率上がっている。また、30日の死亡率・2つ以上の有害事象に関しても、古い製剤は良くない結果となっている。
Discussion
22日より古い製剤を24時間以内に10単位以上投与されたら、24時間死亡率はあがった。
Limitation
製剤の古さをランダム化できていないこと。
例えば、より助けなければならないような状況の時に、新しいのを使っていたりするかもしれない。
Conclusion
10単位以上の輸血を外傷性出血性ショックに使う場合、古い製剤を使うことは悪いOutcomeと関係している。
発表者:Dr.西澤
こちらは文献1と対立するような結果となりました。やはり、大量輸血が必要な患者では、新鮮なRBC輸血の方が良いという結果となりました。
ICUの患者、心臓外科手術の患者においての赤血球輸血では、新鮮か古いかで予後や有害事象に差はないというのは知っている医師が多かったですが、大量輸血が必要な外傷患者ではどうなのかは各医師はっきりとしない印象でした。本論文の内容を全員で共有した後、大量輸血が望まれるという判断をER到着してからどの段階で判断するかという疑問が出ました。
当院では、「レッド」と呼ばれる緊急時の未クロスO型輸血の緊急コードがあります。ただし非緊急時もコード「レッド」が実施されることもあり、今後は適正使用に努めようという議論も行われました。今後の診療では、具体的な緊急症例として10単位以上の大量輸血が見込まれる外傷患者などでコード「レッド」を適応することを目標としました。
まとめ
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RBC製剤の新旧は、重症成人患者の予後に左右しない。
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むしろ、輸血関連の感染症リスクは高い。
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ただ、10単位輸血の大量輸血が必要な外傷患者の群では、新鮮な赤血球製剤の方が24時間死亡率は下がることが分かった。
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状況に応じて、RBC製剤の新旧も使い分けられるようになりたい。