生食 VS リンゲル液

 

救急外来では循環血流量減少を認める患者に対して、生食かリンゲル液を投与します。

問題はどちらの輸液を選択するべきか? 今回は生食とリンゲル液の比較に関する文献を抄読しました。

 

最初は合田先生の論文です

 

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Meta-analysis of high- versus low-chloride content in perioperative and critical care fluid resuscitation

Pubmed URL;https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25357011/

 

 

  • 今までわかっていること:

bufferの有無や等張液かどうかによる蘇生輸液のRCTはある

  • わかっていないコト:

輸液中のクロール濃度により蘇生輸液として適しているか検討しているものはない

  • 論文で新たに分かったこと:

高Clは致死率には影響しないが、腎機能障害、高Cl性アシドーシス・代謝性アシドーシスのhigh riskとなり、血漿Cl高値、輸血量増多、人工呼吸器装着時間が長期であった

  • 今後の診療をどう変えるか:

蘇生輸液として高Cl性の輸液を使用しすぎないようにすることが必要

 

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この論文では生食は高Cl血症から有害事象があることが指摘されています。一方でこちらの論文がでた2014年は良いRCTがまだありませんでした(そのためReviewです)。一方で次の神野先生の2015年JAMAにでたSPLIT試験はこの分野における初めての質の良いRCTとなります。本当に生食の方が有害なのでしょうか?

 

 

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Paul Young, Michael Bailey, Richard Beasley, et al. Effect of a Buffered Crystalloid Solution vs Saline on Acute Kidney Injury Among Patients in the Intensive Care Unit: The SPLIT Randomized Clinical Trial JAMA 2015 27;314:1701-10. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26444692/

ニュージーランドのICUをセッティングとして生理食塩水 vs 緩衝晶質液でのAKIの発生率について検討した前向き多施設無作為クロスオーバー試験。結果としては、両群間にAKI発生率の差がなかった。


 

  • 今までわかっていること

生理食塩水輸液がAKI発生に関与している可能性が指摘されている

観察データでは緩衝晶質液は生理食塩水と比較して、AKIや死亡のリスクを低下させることが示唆されている。

  • わかっていないコト

ICUセッティングでの緩衝晶質液 vs 生理食塩水でのAKI発生に関する研究はない

  • 論文で新たに分かったこと

生理食塩水と緩衝晶質液で、AKI発生率の差は認めなかった。

患者背景などを分けたサブグループ解析でも優位な差は認めなかった。

  • 今後の診療をどう変えるか

本結果からは緩衝晶質液を支持する結果とはならなかった。

ただし本研究はニュージーランド/予定入室/重症度が異なる研究結果であり、外的妥当性には懸念がある。

 

方法

ニュージーランドの4施設ICUで実施され、7週間×4期間での2回のクロスオーバーが実施された。

対象患者はICU入室患者全て。除外基準:維持透析患者、今or6時間以内にRRTを実施している患者

輸液はA液 vs B液として盲検化された→生理食塩水 vs PL-148液(←ラクトリンゲルとも組成異なる)

Primary outcomeは血清Creに基づくRIFLEシステムによるAKI発生(ベースラインCre2倍)の割合

事前に5つのサブグループが設定されていた (APACHEⅡ、敗血症、外傷、心臓血管外科、外傷性脳損傷)

結果

Background:2群間に優位な差を認めず。平均年齢約60歳、男性 2/3、術後が70% 救急入院は15%

輸液量 ほぼ同量の輸液が行われた(中央値[IQR])

PL-148液群:2000mL[1000~3500mL] / 生理食塩水:2000mL[1000~3250mL]、P = 0.63)、

Primary outcome登録後90日以内にAKIを発症した患者

緩衝晶質水投与群では1067例中102例(9.6%) / 生理食塩水投与群では1025例中94例(9.2%)

Secondary outcome

RRTの必要性→2群間で優位差なし

ICU滞在日数、入院日数、人工呼吸の使用または期間、ICU再入院の必要性→優位差なし

事前に設定した5つのサブグループでも、AKI発生率に優位差なし

 

以上神野先生まとめ

 

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こちらの論文では生食とリンゲル液に差がないという結果となっています。一方で患者層が中等症以下で、輸液量の平均も2000mlと少量であった点が、我々のERの患者層とは一部異なる点が指摘されました。

 

さて、次の佐藤先生の論文は2017年に発表されたより重症な患者さんの研究です。

 

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JC 10月 佐藤担当分

論文タイトル:Chloride content of fluids used for large volume resuscitation is

associated with reduced survival

 

Crit Care Med. 2017 February ; 45(2): e146–e153.

 doi:10.1097/CCM.0000000000002063.

 

●今まで分かっていること:

生理的範囲を超えた塩化物イオンを含む輸液による塩素負荷は高クロール血症や代謝性アシドーシス(HCA)を引き起こす。高クロール血症は独立したICU死亡率の増加因子であり、補液によるクロールの負荷はHCAの主要な原因の一つであり、かつ回避可能である。

 

クロール投与の制限はAKIの発症率やRRTの施行率を下げた研究があったが、患者数を増やして再検討した際には患者背景による影響や、臨床医がもつホーソン効果による影響もあるとされた。クラスターランダム化の二重クロスオーバー試験では、リンゲル液を投与された群と比べてAKIや病院内死亡率、90日以内のRRTの施行率には差がなかった。

 

その研究では生食を投与された量が2Lと少なく、また患者のAPACHEⅡスコアも低い傾向があった。敗血症の動物実験モデルではHCAは循環動態の不安定化、炎症反応の惹起、腎機能低下、生存率の低下を引き起こすことが知られている。大量補液が必要な患者ではどの補液を選択するかによって、予後に差があることが予想されるものの、その程度は不明である。

 

またクロールの負荷量とHCA、AKI、死亡率にどのような差がでるのかははっきりしない。さらに、HCAについての長期予後は不明である。

 

●論文で新たにわかったこと:

 

・クロール負荷は単因子解析でHCAの進展と強く関連していた。しかし総輸液量とAPSⅢを調整すると、関連性は弱くなった。

 

・総輸液量を調整してもAKIの発症率はクロール負荷と関連していた。順序ロジスティック解析では100mEq増えると1.09(p<0.0001)だけオッズ比が上昇することが示された。ただし、クロール負荷を連続量として解析すると、APSⅢで調整するとAKIの発症率とは関連がなかった。

 

・順序ロジスティック解析を用いて、HCAはAKIと関連していることが分かったが、年齢とAPSⅢを調整すると関連がなくなる。

 

・クロール負荷が増大した患者では死亡率が大きく増加しており、オッズが70%増えている。総輸液量やAPSⅢを調整しても同様の傾向であった。30日、90日で評価しても同様であり、またクロール負荷を層別化せず連続量として扱っても同様であった。クロール負荷が100mEq増えると一年死亡率が5.5%増加する。

 

●今後の診療をどう変えるか:

 

 重症患者で、かつ敗血症性を含むショック病態で最初の24時間の輸液量が60mL/kgを超える患者においては、輸液はリンゲル液を選択する。

 

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こちらの研究では輸液量が多くなった場合や受傷患者では生食がリンゲル液より有害である結果となっています。

 

 

生食はKフリーという利点があり、当院では初期輸液は生食を開始しています。今までは大量輸液が必要な症例では1000mlほど輸液した後はリンゲル液に変更する医師が多かったです。この輸液戦略は今回の抄読会でも今後も踏襲して良いと思われます。

 

まだこの分野は今後の議論の及ぶところですが、漫然とした生食を続けるのでなく、可能ならばリンゲル液に変更する輸液戦略は推奨されるものと思われました。

 

 

まとめ 文責 増井